前回は「これはアウト!即退場」となるパワハラのケースを判例を基にご紹介しました。
ところが、部下と日々接するマネージャーの皆さんにはもう少し知りたいのはないでしょうか?
実際は「即、アウト」というケースよりも、自分は問題ないと思っても部下から「それはパワハラです」と言われて困っているケースが多いのではないでしょうか。いわゆるパワハラと指導のグレーゾーンですね。
今回はグレーゾーンにりそうな事例を共に考えましょう。これを読めば、皆さんが自信をもって職場で部下指導出来るようになるでしょう。
悩ましいグレーゾーン
皆さんに質問です。これからご紹介するケースはパワハラになるでしょうか?
事例1 チームワーク向上のための飲み会
あなたは新たな職場に管理職として異動になった。メンバーは真面目で仕事熱心、専門知識はあるが、気持ちはバラバラで相互に関心・協力が不足と思った。そこで「チームワークの良い職場にしよう」と方針を掲げてミーティングで伝えた。そしてチームワーク作りのために定期的に飲み会を企画した。
久しぶりに新人が職場に配属されたので、歓迎の飲み会をやろうとしたら、「定時後は家族と過ごしたいので、飲み会には出たくない」という3年目の社員。「これも仕事の一環だよ、出席することね」と言ったら「そういう強制はパワハラですよ」と言われてしまった。
事例2 間に合わすために考えろ、と言った場合
あなたはお客様に新商品をとどける重要なプロジェクトのリーダー。ミーティングの場で、あるメンバーが「納期に間に合いそうもありません」と言う発言をしたので、リーダーとして「何を言っているんだ。君の担当するパートが出来ないと全体が遅れるんだよ!どうやって間に合わすか考えてくれ!」と強い調子で大きな声、怖い顔で言った。
メンバーから「それパワハラですよ」と言われた。
事例3.再発防止、しつけのためにきつく叱った場合
あなたの部下に知り合いのご子息A君が配属されてきた。専門性があり頭も良い。明るい性格だ。
知り合いからは「少し甘いところがあるので世の中の厳しさを教えてやってくれ」と言われている。時々会社に遅刻をする。今日はお客様との大事な約束に1時間遅れたらしい。お客様からクレームの電話が入った。A君が職場に戻って来たので、2度とミスを起こさないように震え上がらすくらいに強く叱った方が良いと思い、「何やっているんだ!お客様は待っているんだぞ!どうして遅れる連絡をしないんだ!」とかなり厳しい口調で30分別室で叱った。A君は涙を浮かべて下を向いていた。
パワハラと指導の違いとは
それぞれよくあるケースですね。世の中の風潮でパワハラだと言われることが怖くて部下に指導したり叱るのを躊躇するマネージャーが増えているようです。
もう一度パワハラの定義を確認しましょう。職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・肉体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりする行為を言う。これと指導の違いを見てみましょう。
この違いは人事院が作った「パワーハラスメント防止ガイドブック」に掲載されているのが参考になるかと思います
パワーハラスメント防止ガイドブックはこちらからダウンロードできます。
1.目的:パワハラは「相手をバカにする、排除する」が、指導は「相手の成長を促す」
2.必要性:パワハラは「業務上の必要性がない(個人の人格を否定する)」が、指導は「仕事上必要がある」「健全な職場環境を維持するために行う」
3.方法、内容:パワハラは「威圧的、攻撃的、否定的、批判的」だが、指導は「肯定的、 受容的、見守る、自然体」
4.タイミング:パワハラは「相手の状況や立場を考えない」が、指導は「タイムリーにその場で」「相手の受入れ準備が出来ている時に行う」
5.誰の利益か:パワハラは「組織や自分の利益優先(自分の気持ちや都合が中心)」だが、指導は「組織や相手にも利益が得られる」
6.上司の感情:パワハラは「怒り、イライラ、嘲笑、不安、嫌悪感」だが、指導は「好意、穏やか、きりっとした」
7.結果:パワハラは「部下が委縮、職場がギスギス、退職者が多くなる」だが、指導は「部下が責任もって発言・行動し、職場に活気がある」
業務上、適性かどうかのポイント
業務上、適性かどうかのポイント
指導になるか、パワハラになるかは、「業務上、適性かどうか」「伝え方が適性であるかどうか」がポイントですね。
従って事例1の場合は、職場をまとめようと言う目的は間違ってないですが、参加者の都合を聞かないのは問題ですね。定時後は家にいたいという社員には何故業務上必要か丁寧に説明する必要があります。
事例2も「どうやって間に合わす事が出来るか考えてくれ!」は職務として正当な理由なあるので、パワハラにはならないでしょう。ただ威圧的な態度や言動は好ましくないでしょう。なぜ必要かを背景を説明し対話しながら進めることが望ましいでしょう。
事例3の場合も叱責することはパワハラにはなりませんが、相手の受け入れ状況を見ながら伝える必要があります。言葉遣い(罵倒するなど人格無視)や表情(にらみつける、腕組み)、声の強さ(怒鳴り声)など伝え方には注意する必要があります。
似たようなケースがあります。高層ビルの建設現場で頭上を鉄骨を運ぶクレーンが行きかっているところへ、実習にきた学卒の新人がヘルメットもせずスマホを見ながら歩いていたのを監督者が見つけたとしましょう。監督者が思わず、「馬鹿者!何やっているんだ!死にたいのか!!」と怒鳴り、肩を捕まえて安全な場所に連れていく場合も同じですね。
「馬鹿者」は相手の人格を否定する言葉ですが、状況の緊迫性、新人のメリット、重要なことを伝える必要性から言うとパワハラにはならないと思います。
まとめ
上司であるマネージャーの皆さんが部下に対して指導して適性なのは下記の通りです。
1.業務上や職場規律上の必要性がある
2.伝え方も適性であること(肯定的、受容、穏やかなど)が必要である
ベースには部下を育てたい、部下に対しての愛情が必要と言うことですね。この2点があれば自信をもって部下指導が出来ますね。
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