6月にパワーハラスメント防止の法律が改正されて*管理職はパワーハラスメントに対して意識は上がっていると思います。ところが実際の職場では部下が色々な問題を起こしてどう指導したらよいかと管理職は悩みますよね。今回は一つの事例を研究しましょう。管理職としてパワーハラスメントにならず、上司もストレスをためずに部下の指導のし方がわかると思います。 *改正労働施策統合推進法、通称「パワハラ防止法」
この事例はパワハラになると思いますか?
筆者はある会社の管理職研修で、Aさんから部下指導の悩みを相談されました。部下のミスが多くてどう対応すればよいかのお話でした。また「何やってんだよ」と言いたいけどパワハラになるから言えなくてストレスがたまるそうです。誠実なお人柄で、部下に仕事を任せるのも細心の注意をして任せる内気なAさんは本当に困っているようです。皆さんならどうしますか?
経緯はこうです。
よその職場から異動になってきた25歳の男性社員B君。仕事は営業職ですが、そそっかしくて今まで何度もミスを犯しています。先々週もお客様からいただいた注文を手配するのを忘れてお客様からクレームを受けました。どうも注文を受けたらメモに書く、すぐ忘れずに関連部署に連絡するなどの仕事の基本が身についていないようです。B君はミスをする度に真面目な管理職Aさんは冷静に対応の仕方を丁寧に教えて来ました。
今週は外回りの営業でセールスカーを運転していて、接触事故を起こしたというのです。
「何やってるんだ」と思いましたが、冷静に状況を聞きました。
B君が初めて訪問するお客様に向かう所です。営業所を出るのが遅くなり約束の時間より少し遅れそうです。焦って車を運転しているところに携帯に電話がかかってきました。着信の表示は先週クレームを受けたお客様です。慌てて運転しながら受信し話し始めたら、前の車が急ブレークを踏んだので、軽くぶつけてしまったというのです。
Aさんは冷静な口ぶりながら「何やってんだよ、お客様から電話が来ても車の運転中は出ないか、車を止めて改めて電話だろう」とついカッと来て言ってしまいました。そして「君自身は怪我はないのか?お客様や警察などに連絡して落ち着いて後始末して戻って来い」と伝えました。
そして夕方職場に戻ったB君に別室で事情を聴き、原因分析を含めた反省文と今後の対策を書いた始末書を書かせました。
Aさんは「つい何やってんだって言ってしまった。あれはパワハラだろうか」と気にされています。
さてこの場合Aさんはパワハラになるでしょうか?
パワハラになる3条件とならない場合
6月から施行のパワハラ防止法では事業主のパワハラ防止の対策を義務化しています。その中では下記の3条件全て満たす場合をパワハラとしています。
1.優越的な関係を背景とした言動
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
3.労働者の就業環境が害されるもの(精神的・身体的苦痛を与える言動)
>職場に おけるハラスメント 防止 対策が強化されました!(ここをクリック)
また客観的 にみて 、 業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については 、 該当 しません 。
さらに「パワハラに当たる6つの項目」と「パワハラに該当しない例」を紹介しています
◎精神的な攻撃
<該当すると考えられる例>
(1)人格を否定するような言動(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)
(2)業務の遂行に関して必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返す
(3)他の労働者の面前で大きな声で威圧的な叱責を繰り返す
(4)相手の能力を否定し、罵倒する内容のメールなどを相手を含む複数の労働者に送信
<該当しないと考えられる例>
(1)遅刻など社会的ルールを欠いた言動がみられ、再三注意しても改善されない労働者に一定程度強く注意
(2)企業の業務内容や性質に照らして、重大な問題行動を行った労働者に一定程度強く注意
ミスが多い社員B君に対して電話で「何やってんだよ」と言ったのは該当しないと考えられる例(1)ですね。
会社に帰ってきたB君に対して胸ぐらをつかんだり、大勢のいる前でどなったりすればパワハラに該当しますが、このケースの場合、Aさんはパワハラに当たらないと考えて良いでしょう。
会議室で一人 反省文・始末書を書かせるのはパワハラ?
またB君に対して、会議室で一人で反省文/始末書を書かせたのはどうでしょう。
パワハラ防止法では下記の説明があります。
◎人間関係からの切り離し
<該当すると考えられる例>
自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修をさせる
一人の労働者に同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
<該当しないと考えられる例>
(1)新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修等の教育を実施
(2)懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復職させるため、一時的に別室で必要な研修を受けさせる
Aさんの事例は該当しない例の2番目にあたります。もちろん、会議室に半日以上させるのはパワハラに近くなります。
ちなみに、上司に叱られたり、原因を指摘されたりするとそれで終わってしまいまた同じミスを起こしかねませんが、一人で冷静にミスの原因を考え再発防止の対策を考えるのは教育効果があると思われます。
また基本的な叱り方については下記をご参照ください。
ミスの多い社員には基本事項を指さし確認をさせる
ちなみにB君のようなミスを良く起こす社員には、下記のような基本動作の確認をひとつずつさせるのが効果的と思われます。
1.一日の時間管理表を書かせる
例 お客様に30分前に到着するには何時に出かける必要があるか計算させる。余裕時間を持たせる。
2.急な出来事が起きたりや焦りそうな時には「ゆっくり深呼吸する」「あえて動作をゆっくりする」癖をつけさせる
焦って早くやろうとする交感神経が興奮し視野が狭くなり、ミスを起こしやすくなります。深呼吸や身体の伸びをすることで副交感神経が働きリラックスし、正常な感覚が戻って来ます。
3.基本作業を一つずつ指差し確認させる
例 「持参書類、よし!」「安全運転、よし!」「携帯受信、停車よし!」など
管理職の気持ちを”I メッセージ”で伝えてOK
また管理職のAさんは「俺はがっかりしている」「何回言ってもミスする君には何してんだよと言いたくなる」と言っても構いません。
「自分はこう感じている」のように自分を主語にして気持ちを伝えることを”Iメッセージ”と言います。相手を主語にする”Youメッセージ”(お前はミスばかりしている)なら相手に直接怒りをぶつけることになりますが、自分が主語の”Iメッセージ”ではそれに比べるとあたりが柔らかくて相手は傷つきません。
”Iメッセージ”を出すと言うのは心身の健康を保つことに役立ちます。指導しているのに部下がミスを重ねると上司は怒りを感じるのは自然なことです。人は怒りを感じた時にそのエネルギーは内側か外側に向かいます。怒りを内側に貯めるとストレスがたまり胃腸や循環系に悪い影響を与えます。また、たまった怒りが何かの拍子で一遍に出ることがあります。いわゆる八当たりで、社会的に良くないですね。
反対に外側にストレートに怒りを出すとパワハラに繋がりかねません。「バカヤロー」など言ってしまいますね。これに対して「何回言ってもミスする君には何してんだよと私は言いたくなる」と”Iメッセージ”で伝えると、Aさんにとってストレスはためずにすむじ、冷泉な形で感情が伝わるのでB君の反省材料につながります。
このケースではAさんは”Iメッセージ”で自分の感情を短く小出しに伝えるのがいいですね。
まとめ
下記の場合はパワハラには当たらないでしょう。
1.再三注意しても改善されない部下に「何やっているんだ」と個別に一定程度強く言う。
2.今後の育成のために短期集中的にミスに対して個室(会議室)で反省文・始末書を書かせること。
またミスの多い社員には下記が有効です。
1.一日のスケジュールを書かせ計画的な仕事をさせる
2.焦る時は深呼吸や湯他Tりした動作をする癖をつけさせる
3.行動を起こす前に基本事項を指さし確認させること
さらに「なにやってんだよ」と言いたくなった時は、”Iメッセージ”で伝えるのは効果的です。
これらを参考に部下とよりよいコミュニケーションを交わしてくださいね。
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