誠実だけど内気な上司にとって、「自信があって、強気の部下」って扱いにくいですよね。本音で言うと「避けて通りたい」ですね。こういう部下を持ってお困りになっていませんか?
今回はこのタイプの部下との接し方をご紹介します。上司として部下とのコミュニケーションがスムーズに行き、ストレスが減りますよ。(イラストは鈴木景子氏作成)
「強気で上司をおどす」タイプの部下、お困りの事例
あなたは物流会社の中間管理職です。あなたの部下の一人、広岡さんはやり手の物流担当者です。多くの運送協力会社や倉庫業者対象にこちらの言い分を通して大きなコストダウンをしてきました。先手先手をとって物流効率化のアイデアを出していて頼もしい部下です。
馬力があって、社外の業者相手にまくし立てて交渉をまとめてしまう。ただすこし荒っぽい。経費も使う。時々業者からクレームの電話が直接上司のあなたや役員に入ることがある。
説明の際の文章もパンチがありわかりやすいのですが、すこし自分中心。自分に都合の良い筋書きになることがあります。「これは私が独自に考えた方法ですが」といかにも自分はやり手だという自己宣伝的な説明もするのがたまに鼻につくことがあります。もう少し相手のことを考えた説明やデータをもと謙虚にプレゼンをすると相手にも好感を待たれて良いのだがと思います。
また職場内でも影響力は強い部下です。いわばインフォーマルグループのボスで後輩を集めうんちくを立てる。面倒見の良い点もあって、たまに食事をご馳走しているようだし、出張の際はお土産も買ってくる。飲み会の誘いも多いようだが、後輩が断ると怒るらしい。
渋々着いていっている後輩もいると聞きます。ただ自分流の仕事の進め方を後輩に押し付けたり、あれこれ指示をしているようです。怒鳴ったり暴力はふるっていればパワハラになりますが、そこは自制しているようです。
あなたは少し注意しようと思いますが、「広岡君」と声をかけると「何ですか、課長」とドスのきいた声でにらんでくるので、ついあなたも必要最低限の事しか言いません。何かおどかされたように感じ、内気なあなたは苦手です。結局、注意もせずに現在に至っています。
「強気で上司を脅す」タイプの部下の特徴
部下の特徴(短所・長所)を上司は良く知っていると上手く扱えます。
筆者は別名「やり手ワンマン型」とも呼んでいます。
短所
◇人を脅したり威嚇したりする、攻撃的。
◇他者を利用する結果、いつか他者は操作されたと感じて離れていく。
◇無神経
◇物事をやり抜くのに困難を感じる
◇細かい事にあきる。
◇出し抜こうとする。親密になり、献身的になるのに困難。
◇緻密さをドラマや興奮によって埋め合わす。
*暴力をふるったり、暴言を吐いたり、大声で威嚇したりようだと「部下のパワハラ」に該当しますが、これは別の回に「逆パワハラ」としてご紹介します。
長所
◇話が上手く行動的・精力的。率先して動き、リーダーシップがある。
◇チャーミング、カリスマ性がある。
◇他の人を興奮させるのがうまい。
◇人をもてなすのに長けている。
◇自分の指導に従わせるのが得意。
◇適性ある職業;経営者、政治家、タレント、芸人、コンサルタント
「強気で上司をおどす」タイプの部下、対処方法
このタイプの部下は基本的に人に不信感を持っていて、相手をおどかして優位に立とうとします。そこで
◇相手を出し抜こう、おどそうと言うとするパターンはシンプルでわかりやすい。そのパターンはわかっているよと先手を取ってユーモアを持って伝える。相手はどうしてわかるのかと興味を持ち出す。
◇何度か、おどしたり相手がどの位の実力かを「ためす」行動はするが、同じようにそのパターンの上を行く対応をする。
◇ある程度信頼関係が出来て来たら、「本当は何が欲しいのか」ゆっくりと気持ちを聞く。
育成のポイント
①自分勝手な点、ルール違反はやんわりと注意するが、まずは良い点を褒めてから。褒めるのは個性的で有能な点に焦点を当てる
②高いプライドを尊重すると同時に傷つきやすい感性の高い気持ちもケアする。
「そういうことで辛かったんだね」と親身になって共感する。
③また、このタイプの部下は目的達成のために自分に協力的な人の善意に鈍感になったり時には無視して傷つけることがあるのでそのことをフィードバックする。「君をサポートする人の気持ちをもっと理解すること。配慮して感謝の気持ちの伝えること」
④時にはこのタイプの育ってきたヒストリーを理解することも役立つ。広岡さんは幼少時可愛がられて育ったが、時には多忙な両親にほっておかれて孤独感を味わった。時折、面白いは話をしたり、いたずらをしたりして両親の注意をひいた。家は裕福だったので、子供時代は同級生を連れ駄菓子屋に行きお菓子をふるまった。気に入らないとふくれるか、大きな声を出して欲求を満たしてきた。「お山の大将」として育って来た。
「強気で上司をおどす」タイプの部下対応の成功事例
課長のあなたが広岡さんと会話をしている場面をご紹介します。こういう会話ならスムーズにいくでしょう。
まずは「ちょっと、いいか」と言って別室に広岡さんを呼ぶところから始まります。
広岡君、ちょっといいか?
私も質問があるのでちょうど良いところでした
説教?おやおや、自信家の広岡君にしては珍しく弱気な発言だね(にこにこ笑って。*筆者注:”説教ですか”と言うやや攻撃的な発言をうまく流している)。さて質問とはなんだろう?先に聞こうか?
課長はこの部署の物流戦略についてどの程度考えておられるのか、お聞きしたいと思っておりました(目を据えてにらみつつ真面目な顔で)
おやおや、そういうことなんだね。それをよく理解しているから先般の協力会社の合理化提案だと思っていたが、もう一度足元を固めようということだね(落ち着いて、ややとぼけた感じで)
筆者注:”物流戦略を聞く”という大上段で”課長の実力をためす”ような質問に対して、課長は矛盾をやんわりと指摘する)
そういうわけではありませんが・・・(少し弱気な表情
知っての通り、我が社には主流のA事業と新興のB事業がある。主力事業Aは競争が激しい上に競争が激しく利益が出ない。B事業はこれから伸びていくが、まだまだ物流課題が多い(きっぱりした口調で)。A事業についてはコストダウンが課題なので、協力会社にもお願いして一層の物流費の見直しをしないといけない。これは広岡くんが提案してくれている合理化案がそれにあたる。ただあと5%/年ずつのコストダウンが必要だ。
(筆者注:部下の課長の知識を問う”ためし”質問に対して、正確に事業課題を伝える。ここでおどおどしてはいけない)
そうなんですね。まだまだコスト削減はやらなければならない(素直に)
新興のB事業についてはユーザーが各業界に分かれていくのでいろいろ新しい流通先の開拓が必要だ。ネット販売も出てくるだろう。我々ももっと勉強して更に新規開拓していかなければならない。我々が知らない分野の物流協力会社を見つけて良い関係を作っていくのが大事なんだよ(冷静に、噛んで含めるように)
そうなんですか(感心したように)
ところで、この部署の物流戦略について私の考えを聞きたいって、君はよく知っていると思っていたけど、質問の背景はなんなの?(優しく質問する)
いやあ、私はいろいろ提案して頑張っているつもりなんですが、私の後輩は頼りないし、孤軍奮闘している気になっているんですよ。職場の全体の方向と合っているのかなって。課長もお忙しくて出張や会議が多くてあまりお考えを聴くことが少ないので聞きたかったんですよ。
自分ひとりで孤軍奮闘しているって感じているんだね。
(筆者注:部下の気持ちに触れていく)
実はそうなんですよ(素直に)
なるほどなあ。君はよくやってくれていると思うし、後輩の指導もよくしてくれている。協力会社とも粘り強く交渉してくれていたので安心していたんだよ。正直言うと、君がパワフルに交渉してくれるで協力会社からはもう少し手加減して欲しいと私に電話が入ることがあるけど、私が説明して納得してもらっている。むしろ君は必要なことをやってくれているので、年配の私がフォローするのは良い分担だと思っている。
そうだったんですか。私を自由に動けるようにしてくださっていたんですね。背後で守ってくださっていたんですね(安心したように)
君はよくやっているよ。ただ、もう少し早くこういう話合いをすればよかったね。こうして気持ちを言ってくれてよかったよ、ありがとう。
ところで、前から聞きたいと思っていたけど、本当は君が望んでいるのは何なんだろう(真顔で)
・・・・。そうストレートに聞かれると言葉に詰まるんですが、他者との協調ですかね。つい、力で押し切ってしまうのが私の欠点と思っています。私はタフに見えますがずいぶんこれでも繊細で、心の中では後輩や業者に申し訳ないと思っているんですよ。でもうまく口に出せない・・・どう言って良いのか、やり方がわからない(ふうとため息をつく)
率直に言ってくれてありがとう。今みたいに率直に気持ちを言うと伝わると思うけどね。まあ、これから困ったことがあれば今日みたいに相談してよ(笑顔で)。
わかりました。ありがとうございます(ほっとした表情で)。
まとめ
「強気で上司をおどす」タイプの部下には
(1)上司をおどしたり、ためすような言動をしてくるが、「そのパターンはわかっている」と先を読んだ対応をすると、あいては驚き、興味を持って話しを聞いてくる。
(2)上司を値踏みする(ためし)質問があるので、自分の方が格上だと事実をロジカルに伝える。普段から、上司としての力をつける必要がある。信頼関係が出来てくる。
(3)このタイプの部下は、心の底は繊細な場合が多く、何が気になっているのか、気持ちを聴く。自分を理解されると信頼関係はさらに深まる。
このタイプの部下はなかなか厄介ですが、あなたが上司力を上げて接すればこの上なく頼もしい部下として能力を発揮するでしょう。
なお下記拙著には多くの対応事例を掲載してあります。
>「苦手なタイプの部下の指導育成のコツ~課長の虎の巻」
非常に分かりやすいいブログでした。具体的な対処方法が記載されていてよかったです。ご著書を購入させていただきました。
心のこもった感想、ありがとうございます。また著書ご購入ありがとうございます。これを励みにさらに閲覧者様にお役に立つ投稿をしてまいります。