前月のブログでは「初めて部下をもった方にはTA(交流分析)がお勧め」としましたが、今回は私がTAを学んで良かったことをご紹介します。「え、TAはそんなにいいの?」と思われるかもしれませんが、事実です。TAのおかげで今の自分があるとさえ思っております。
TAは心が見える
私は22歳の時に池見酉次郎先生の「心療内科」を読んで体と心の関係に驚きました。今は心と体がつながっているのは当たり前みたいですが、当時は不思議でした。漆(うるし)にかぶれる人が漆の木の下を通った時に「それは漆の木だ」と言われただけで皮膚がかぶれるのは本当にびっくりしました。心理が身体に影響するのですね。
それに続き池見先生の「セルフコントロール~交流分析の実際」を読みました。それが交流分析(TA)との出会いでした。大学の心理学は面白くなかったですが、この心理学はすごく人間くさくて面白い。レントゲン撮影で人の骨や内臓人の心が見えるのと同様に、TAで人の心や性格が見えるようになるというのが驚きでした。
自我状態分析と言うのがあって、人の気持ちや態度を5つの要素に分けます。それが面白く感じました。
まだ学生だったので友人や親、親せきをよく観察して特徴を診断して「この人は優しい人だからNP(保護的な親の自我状態)が高いなあ」、「この人は天真爛漫だからFC(自由な子供)が高いなあ」と思っておりました。
自分の「今ここ」に気づく
TAを学ぶと自分が今どんな状態かに一瞬一瞬気づくようになります。つまり、自分の感情・気持ち、思考、対人関係のありかたについて「今ここで」気づいていく力が増してまして行きます。
「あ、今、仕事が立て込んでイライラしているなあ。急ぎの仕事をやっているのに人から話しかけられると邪魔された感じがしてムカっとする」など気づきます。また他者との関係で「この人と話しているとなんか圧迫されるような気がする。この方は冷静に話しているのに何か息苦しくなるなあ、何故なんだろう」自分の気づきや自己理解が深まって行きます。
また自己理解が深まればそれだけ他者を理解出来るようになり関係も良くなります。
「この人の言動きついなあ、何かイライラしている感じがする。もしかしたらこの方、自分の中でも自分を責めているのかもしれないな」そう思うと少し他者に対してのまなざしが柔らかくなります。
対人関係が良くなる
私は大学卒業後、富士フイルムに入社し、1500人くらいの工場の勤労課で人事や教育の仕事に携わるようになりました。その時の上司と関係が上手くいきませんでした。何か指示されると反発したり萎縮したりしており毎日ストレスのたまる日々を送っておりました。
その合わない上司の勧めで故岡野嘉宏先生のTA基礎コースに参加しました。そこで、苦しんでいた人間関係の在り方に気づきました。すなわち、支配的だった父親の顔を上司の顔にはりつけていたことに気づきました。それに気づいてからは、きつい言い方をされても冷静に対応することができました。
TあAには他者から予想しない言動をされてもそれを受け止めながら自分の言いたいことを言える方法があります。
自分の経験があったので企業のマネジャーの研修でもこの方法を紹介しています。すると
「苦手な上司とのやり取りがうまく行くようになった」「ギクシャクしていた部下とのやりとりが気持ちよいやり取りになった」という感想をいただくようになりました。
苦手な人との交流がうまくなる
岡野先生が亡くなられてから米国のヴァン・ジョインズ博士のワークショップに参加しました。ヴァン・ジョインズ博士はエリックバーン賞を受賞したTAのの権威です。そこで再決断療法や人格適応論を学びました。
人格適応論はTAをベースとした上司、部下、同僚、お客様、家族など、苦手なタイプの人とのやり取りが難しくなくなる素晴らしい理論です。
研修をやっていて突然怒り出した人、面接してものらりくらりしていて話が進まない人、プレゼンが長くて周りが退屈する人など、今まで困った人は全てこの人格適応論に答えがありました。それを研究して私もビジネスの場で応用できる著書2冊執筆していますが、人間関係で悩まれる方は学ぶことをお勧めします。
>苦手で嫌なタイプの上司の部下になったら読む本~人格適応論からのボスマネジメント~
前向きになり、後悔が減る
TA理論の中で”I am OK,You are OK”と言う概念があり、私は大好きです。ここで言うOKとは優れている、問題がないと言うことではなく、そのままのあるがままの状態で存在して良いと言うことです。人はそのままで存在する価値があり、愛される存在であり、よりよく生きる力を持っているという肯定的、人道主義的な立場に立っています。
自分が上手くいかない、欠点があっても駄目だと思わずそういう自分もいていいんだと思う心境が「私はOK」です。同様に自分の相手で、嫌だなあとか問題あるなあと思いながら「話し合えばわかるだろう、いつ変わっていくだろう」と存在を認めるこてとが「あなたもOK」という考え方です。
この延長の考え方で”自分の人生は自分が決める。故に自分で変えたいと思えば変えることができる”つまり、自分の生き方は自分で決めてよいと言うことです。「自分が人生の主人公だ」と言うことが言えます。
TAや再決断療法で教えていただいた故野間和子先生は次のようにおっしゃっていて私は感銘を受けました。
「人生は笹舟のようなもの。急流に奔流されどこへ流されるか、頼りない存在に思える。だけどよく見るとモーターがついている。モーターを使えば、上流にもどんどん上って行ける。川を下って広い大海で地平線を見ることもできる。時には静かな湖畔に行き昼寝も出来る。自分が人生の主人公だ。」
くよくよしないで胸を張って生きると言うことです。
職場では部下のやる気が上がる
TA理論ではストロークという概念があります。自分や他人の存在を認める言動でやる気のもととも言われています。この反対の意味が、存在を無視したり軽く見るディスカウントと呼ばれるものです。これはやる気が無くなります。
部下を持った人がこの理論を学ぶといかに自分が部下のやる気をそいでいたことに気づきます。
例えば、部下が報告に来てもパソコンから目を離さない。パソコンに向かいながら部下の話を聞く。部下が一生懸命説明していてもうなづかない。気に食わない報告だと途中で話をさえぎって、「何を言っているんだ、ちゃんとやっているのか」と叱責する。これは典型的なディスカウント(値引き)です。これでは部下はやる気が無くなりますね。
ストロークを学ぶと
・部下が報告に来ると、パソコンから目を離して、部下の方を見る。
・笑顔で「報告に来てくれてありがとう」と言う。
・部下の顔を見て聞く。報告にうなづく。「なるほど、そうか」と相槌を打つ。
・最後まで聞く、さえぎらない。
・「そういうことだったんだね」とリピートする。
・「それは大変だったね」と気持ちに寄り添う。
・不明点は「質問していいか」と言って質問する。
・報告が終わると「ありがとう」と礼を言う。
これだけのことで部下がやる気になっていきます。こういう人のやる気を上げる方法は
学校では学びません。生きた人間関係や心理の教科書がTAだと思います。
自分の生き方に気づく
5月に著書を書くためにもう一度TA関連の本を読みました。その中のプロセス脚本と言うことが印象に強く残りました。
もう一歩のところで振出しに戻ると言う脚本(生き方のパターン)です。ギリシア神話の事例で紹介されます。シジフォスはギリシアの神々と衝突してその結果、大きな岩を坂の上にある頂上に持ち上げるということを課せられた。もう少しというところで、息を抜いてしまい、大きな岩はふもとに転がり落ち、また一からやり直さないといけません。「あと一歩」と言う所で、何かのミスをしてしまう脚本です。
私のそそっかしい性格のために仕事やスポーツの本番でミスをしたのが思い出されます。
実はこの脚本はもうひとつタイプがあるそうです。すなわち、頂上には実際に行くのだが気づかない。そして間を置かず、さらに高い山を探して、頂上を目指して岩を押していく。頂上についてもさらに次の山を探して登って行く、という一息つかず永遠に山登る脚本です。これはまさしく私だなあと思います。
多くの仕事をして満足できずにまた次の仕事を探し出します。
多くの人と仲良くなる(親密さ)
TAをやっていると性格がオープンになっていきます。
関わるようになった相手をかけがえのない相手と思う気持ちが増えます。相手と親密な感じを交換し合って自分の中にわき起こる自然な温かさ、ぬくもり、慈悲(やさしさ)の気持ちなどを実感して生きていくようになります。
自分の表面的な仮面やプライドを捨て、相手に無条件の暖かい関心を持ち、心を開いて「今ここ」の率直な気持ちを伝えていくことが出来るようになります。
まとめ
部下との関係を良くしたいと思われる方はTA(交流分析】がお勧めです。私がTAを学んで良かったことは
1.自分の心理状態、行動パターン、感情の持ち方、対人関係に気づくことができます。
2.ぎくしゃくしがちな苦手な相手とのやり取りがスムーズに行くようなやり方を学べます。
3.部下や身近な人がやる気になるような言葉かけ、態度など学べます。
4.意識していないのについやってしまう行動や人間関係について気づき、変えることができます。
5.多くの人と仲良くなります。
これらをマネジャーが気づき、実践しているとはつらつしてきます。心身とも健康で前向きに楽しく毎日を過ごすことができます。部下も影響を受けて健康で自発的になります。
関心がある方は下記の本がおススメです。
>ミレニアム世代の部下を持つマネージャー必携~交流分析によるマネジメントの教科書~
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