管理職研修で「部下との接し方で何が苦手ですか」と伺うと「部下を褒めること」「叱ること」が多く意見が寄せられます。部下の研修でも上司に対する不満でを訊くと「指示が曖昧」「部下の話を聴かない」に次いで「上司は褒めてくれない」という意見が上位に上がります。
今回は部下の褒め方について考えてみましょう。
褒めるのが苦手な管理職の困った事例
新任管理職のAさん(41歳)は真面目で実直な仕事ぶりです。今まで技術専門職で部下はいませんでしたが、管理職昇格と同時に部下を初めて持ちました。毎日が戸惑うことばかりです。もちろん部下へ仕事の指示はきちんとやります。ただ、部下が指示通りやった場合、うまく声をかけられません。黙っていることが多いのです。特に期待以上に部下が成果を上げた時も何も言えません。どう言葉をかけたらいいのかわからないのです。
期末に初めて部下との業績評価の面談をしましたが、部下から「もっと褒めてください」と言われました。
そういえば昨年配属された新人も「私は褒めると延びるタイプです。どうぞ褒めてください」と笑いながら言っていました。その時は「どうしてそんなことを新人が言えるんだ。社会人なのに甘ったれるな。プロとしての自覚はあるのか。自分が新人の時はそんなこと言わなかった」と思いました。それは口に出さず黙殺しました。
新人は年の近い先輩とはフランクな会話をし、うまくやっているようですが、管理職のAさんには話しかけてきません。
上司の部長からも「君のチーム少し元気がないなあ。もう少し部下がいい仕事をした場合、君、褒めた方がいいぞ」と言われますが、どうしてよいかわかりません。
上司が褒めない理由
Aさんはどうして部下を褒めないのでしょうか?考えられる理由をあげます。
1.自分が褒められた経験が少ない
社会人になって職場に配属された時からあまり褒められた覚えがない。先輩や上司からはあまり仕事の進め方は教えられてくれなかった。叱られないように先輩の見よう見真似で一生懸命やって来た。そういえば職場自体が指示通りやって当たり前、お互いに褒め合うことが少なかったな。
また自分も子供の時から余り親から褒められた経験がない。そういえば父親も自分の父親から褒められたことがないと言っていたな。
2.プロとして給料もらっているんだから、部下はやるべき仕事をやって当たり前。褒めるべきことではない、と思っている。。
3.「褒めるとつけあがってくせになる」と思っている。
以上のように考える人は多いですね。残念ながら、これらは間違った古い考え方です。元の上司から教えられたのは現実的ではない古い考え方です。褒められると部下のモチベーションは上がることは色々なデータで確認されています。
叱咤激励、いわゆる叱る、怒るなどで力をつけていた方もいるでしょうが、今の時代それでは若い部下がついて来ません。
部下を褒めるメリットはこれ
コーチングの世界では承認とも言います。
上司がある仕事を教え、期待通りの行動をする時、「それでよい、合っている」と口に出して伝えます。頷くことでも構いません。伝えられた方はこの方法で合っていると安心しその行動を続けます。この承認がないと合っているかどうかが不安になります。
わかりやすい心理学であるTA(交流分析)では褒めることをプラスのストロークと言います。ストロークとは相手や自分の存在を認める働きかけを言います。人に活力を与える刺激としています。人の動機づけ(やる気になる)に大きな威力があります。
ストロークについては下記ブログもご参照くださいね。
>TA(交流分析)で自他を育てる
ストロークでは褒めるだけではなく、人を人として大事に接すると言う意味があります。
部下の名前を呼ぶ、顔を見て話す(机に向かってやパソコンを見てではなく)、声がけする、質問に丁寧に答える、職場の情報を流すなどもここに属します。こういう言葉かけや行動を上司がしていると部下や活力が上がって来ます。
褒めないと何が起きるか
褒められないと部下のモチベーションが上がりません。活力のある職場になりません。部下にとっては「自分はこの職場にいても、大切に扱われていない。自分は存在していない感じがする」と離職につながります。
また褒められないとミスを恐れて緊張し本来の力を出せません。かつて日本のスポーツ界では国内では力を出すのにオリンピックなどの国際大会では「気合いだ気合いだ」と精神力を強化することに力が入って実力を発揮できませんでした。スポーツでは緊張することとリラックスする両方のバランスが大事なのですが、失敗を恐れるとリラックスすることが少ないので集中力が続かないのです。また軽いミスをすると自分を責め、次の競技でも暗い気持ちを引きずって本来の実力を出せないことがあります。
先般の北京冬季オリンピックではカーリングに注目が集まりました。見事、銀メダルを取られたロコ・ソラーレの選手たちは、ストーンを投げた後、中心に行くと「ナイス」と声を掛け合います。
作戦タイムを開きますが、誰かの案に対して「いいねー」「そだねー」と声をかけます。
失敗した投げに対しても「それが次につながるよ」と絶えずポジティブな声がけをします。接戦で非常に集中力と神経を使う競技ですが、こういう雰囲気だからこそ、失敗を恐れずにむずかしい技に挑戦できますよね。
職場での具体的なほめ方
では職場でどう褒めるかをご一緒に考えましょう。
1.相手をよく観察します
まず部下が日ごろどういう努力や工夫をしているか関心を持って観察します。部下が褒められて特にうれしいのは「ターゲットストローク」と言います。心のターゲットにささる言葉ですね。上司が部下の言動に日ごろ関心を持って見ていないと浅い「褒め」に終わります。
2.気軽に伝える
部下がい行動をしたらすかさず「それ、良かったね」と気軽に出し惜しみせず声掛けします。短い言葉で構いません。
3.タイムリーに
数時間や数日経ってからでは部下がその行為を忘れてしまいます。行動の直後が適切です。
特にZ世代と言われる20代前半の部下は小さい時から携帯ゲームに慣れています。携帯ゲームではやったことがすぐ結果がわかります。従って、仕事でもうまく行ったかどうか、すぐ結果が出ることを求めていますので早いタイミングで声がけしましょう。
4.具体的に伝える
何が良かったのかを具体的に伝えます。「とにかく良かったよ」だけでは次に何をしたらよいかわからないので具体的によい点を褒めます。
例えば「この提案書はお客様視点でお困りごとを記入しているのでインパクトがある」とか「君のレポートは実験データに対して、何が言えるかの仮説を書いてあるので読む人の参考になる」など
5.相手のレベルに応じて
ほめ方も相手のスキルや意識レベルに合わせて変えていきます。仕事の初心者にはまずは少しでも進歩したこと、実施したことを褒めます。するとやる気が上がってまた頑張ろうという気になっていきます。
かなりレベルアップした中級者には工夫した点を褒めます。
スキルや意識の上級者には「頑張っている」などの単純な誉め言葉は効きません。初歩レベルのことができたことに褒められるとバカにされているのかと思います。本当に苦労して工夫して乗り越えた点を褒めたり、場合によっては「この辺が次の課題だ」とむしろ挑戦課題を伝えた方がやる気が上がるでしょう。
6.やって欲しいことを常日頃伝えること
上司が部下に何をやって欲しいかの期待を常日頃具体的に伝えていくことは重要です。他の職場や他の業界で望ましい行動をした事例などをミーティングで具体的に話すのもいいですね。仕事の進め方、仕事の質、顧客サービス、チームワーク、スキルアップなど、上司がどういう部下の行動が日常望ましいと考えているかを日具体的な行動を伝えていくことが必要になってきます。
>具体的な指示の仕方を学び、部下に確実に動いてもらおう!
7.上司対部下だけでなく、職場ぐるみで褒めること
上司から褒めてもらうだけでなく、一緒に仕事をして日常の行動を良く知っている職場の仲間から「この点良かった」「ありがとう」などの褒めたりや感謝されたりするコメントは意欲が上がります。
退職を減らしたある幼稚園の例では社内SNSで同僚同士が短いコメントをしあって意欲を上げ離職を減らしています。お互い褒めるのが当たり前になるよう職場環境を変えていくことはいいですね。
褒めることに支障はあるか
Aさんは「褒めるとつけあがる」と思っていましたが、では実際に褒めることを続けると何か支障はあるでしょうか?
基本的には褒めて支障はないでしょう。
あえて言うと部下が「褒められないとやらない」と部下が他者の承認に依存的になる事が考えられます。
そこであるレベルに来たら部下が自分で目標設定して頑張って達成したら自分で自分を褒めると言う自律的な行動に変えていくといいですね。元メジャーリーグのイチローや現在活躍中の大谷翔平選手はここの部類に入って行きます。
また褒められるのに慣れてしまうと少々の誉め言葉は効果が少ないですね。これも同様、他者から褒めてもらう他者承認から自分で自分を認める自己承認に切り替えるようにするといいでしょう。
上司としては「君はどうしたい、どのレベルになると良い?」と質問して部下が自分で目標を考えさせるといいでしょう。
応用の演習「陰褒め」
「陰褒め」は研修で行うエクササイズです。「陰口」と言う言葉がありますが、その反対です。4~5人グループで、一人のメンバーがいないという前提でその人の良い点を褒めます。
リアルでやる場合、褒められる人は後ろを向き、オンラインでやる場合は、画像オフをします、約2分。
褒められた人の感想は「普段褒められないので、とても嬉しい」「そんな風に見られているいてるんだ。やる気満々、元気百倍」と言われます。
職場での応用は、上司がよその部署で「うちの職場の○○君はよくやってくれる。気が付くし仕事が早い」といいます。まわりまわって同僚から「君の上司がほめてたよ」と聞くとやる気が上がります。
また「君がお世話したお客様から、非常に丁寧に対応してくれて嬉しかったまた当社を使いたいとお褒めのメールがあったよ」なども応用例ですね。
まとめ
部下を褒めるのが苦手な上司は部下に不満を持たれます。特にZ世代と言われる20代前半の部下は褒められて育っているので褒めない上司には信頼を置きません。
1.管理職が褒めない理由は、「自分が新人時代から褒められて育っていない」「家庭環境でもほめらえずに育っている」その結果、「仕事はやって当たり前。褒める必要はない」と思っています。
2.部下にとって褒められることは今やっているいることが正しいか、合っているかどうかが確認でき安心出来ます。また意欲の源泉です。
3.部下を褒めるには(1)よく観察する (2)気軽に伝える (3)タイムリーに(4)具体的に
(5)相手のレベルに応じて (5)期待を伝える (6)職場ぐるみで褒め合う環境づくりがポイントです。
4 直接褒めるのも良いですが、第3者から「自分が褒められていた」と伝わるようにする「陰褒め」も一つのやり方です。
これらを上司の管理職が実践していると部下は上司の意図通りの仕事をしてくれるようになり、意欲も上がり成長します。上司への信頼も上がりますよ。
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